桂米輝 その6(予算オーBar)

新作落語のホープ、桂米輝さんの記事に戻ります。
個人的にはまだまだこのシリーズ続けたい。これだけピタッと私の心の隙間を埋めてくれたニューホープが、過去落語界にどれだけいたであろうか。
まだまだ続けたいと思ういっぽう、びっくりするほど世間の反響が薄いので、今日でいったん筆を置きます。
コロナ禍で頑張る米輝さんを応援したいのだけど、いささか時期尚早だったかもしれない。
でも、私のブログの記事は決して死なない。
2年後になるか3年後になるかはわからないが、米輝さんの段階的出世と一緒に、必ずこの一連の記事も蘇ると、本気で信じている。
そして現状少ない個別記事のアクセス数が、みるみる上昇していくところまでも。

「予算オーBar」という洒落たタイトルの落語を。
今回取り上げている米輝さんの落語の中で、これが4番目のデキということではない。だが、かなり特徴的であるのでこれを。
なにしろ、落語でもってコントをやり切った一席なので。

米輝さんが、古典落語から出てきているということは、再三述べている通り。
それどころか、古典落語の手法で新作落語を堂々語っている、得難い人だとすら思っている。
そこからさらに米輝さん、お笑いを日々追求しているコント芸人の領域すら、手に入れてしまったのだ。

「予算オーBar」は、バーのカウンターでなぜかウーロン茶を飲んでいる主人公と、その相手を仕事だからしなければならない女性バーテン二人の噺。
まさにコント。典型的な、ボケとツッコミ。
ボケのほうは相当に自由だが、ツッコミは激しいそれではなくて、芝居と同様に落ち着いたもの。
状況としては不条理に巻き込まれているのだが、もう少し軽い。
自由なボケも、自由さをまき散らしつつ、しかしながらこの世界の中で秩序を保っている。とても気持ち悪く、とても楽しいキャラ。
落語だからもちろん情景は想像しながら聴くのであるが、徐々にわかってくる、主人公の風体等に、コントの匂いがする。
落語を聴きながら情景を浮かべ、さらに落語のシーンを演じる二人のコント師の舞台を思い浮かべながら聴く。とても楽しい。

コントにおいて必須の、ぶっ飛んだシチュエーションと、それと相反するまともな世界の仕組みとを、落語において実現してしまっている米輝さん。
そんな人知らない。
柳家喬太郎師は、芝居の要素の強い落語を掛ける人であり、特に新作落語はこの傾向が強い。
だが喬太郎師の落語は、「ハンバーグができるまで」が舞台化されたのを見ればわかるとおり芝居ではあるものの、コントではないのだ。
芝居の型は踏襲しているが、コントの型には当てはまっていないからなのだろうか。芝居の知識がある人なら、的確なコメントを出してくれるかもしれないが。
いっぽう米輝さんの落語は、コントの型にズボッとハマっている。
仲間の噺家ひとりと組んで、もちろん主人公を米輝さんが演じてTVの演芸番組(若者向け)で出せば、必ず反響があると思う。
思うが、落語ファンとしては、このようなコントを包括した才能が落語界に存在することを喜びたい。

もうひとつ感心したのが「専門生物」という落語。これも5番目のデキだということではない。
こちらはなんと、ひとりコントなのだ。
生物の女教師が、卒業する生徒の前で語るひとりコントであり、ひとり芝居。
このコントを引っ提げて、米輝さんがR-1ぐらんぷりに出場したっていい。優勝するまではないと思うが、本選に出ていたとして、遜色はないと思う。
そう思うのは、高座で鍛えた心臓の強さから。
ひとりコントなんてTVで視てると、客との接点が見つからず、滑ってるとまではいわないものの変な空気のまま終わるものが結構ある。
やはりその点、落語のスタイルを採っているといいなと思う。
やはりこの作品も、米輝さんが扮装してコントに出ていたら応援するものの、やはり落語であってくれてありがたい。
「こんなの落語じゃない」と吠える人も間違いなくいるわけだが、座布団の上に座っているということで、もろもろの違和感がスッと吸収されるのだ。

ちなみに、どちらの噺も標準語である。関西弁は封印。
それでおかしな感じになることはまったくない。

米輝チャンネル以外に米輝さんの噺がYou Tubeに出ていないかなと思って探したら、2017年の「つる」というものがあった。
張った声で前座噺を語る米輝さん。
セリフを間違って、甚兵衛さんのことを「生きじび・・・生き地獄」と呼んでしまう。
生き地獄と呼んで甚兵衛さんに訂正されるのが本来のクスグリだが。
こんな失敗作が残っていて気の毒だなと思ういっぽう、アドリブでなんとかして欲しかったですね。
でも、才人のルーツがわかって面白かった。この高座のデキ自体は、失敗がなくても凡庸だが。
もちろん、このつるを見ればわかるが、古典落語の型がしっかりできているから、そちらの方面でも楽しみだ。

さて、コロナのおかげでネタ不足、当ブログの休止を昨日予告しました。
明日から更新をすぐ休むとは決めていないものの、毎日更新縛りはもう放棄します。
午前7時15分アップという決めごとももはや守るかどうか。
よろしくお願いします。

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作成者: でっち定吉

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