最近テレビラジオ、そして配信(産経らくご)で面白いのがいろいろ聴けた。
新婚さんいらっしゃい!には柳亭市若さんも登場。
今日はNHK演芸図鑑から。林家つる子「箱入り」。
WEB上に、この噺がどこからきたものなのか載っていなかった。
古典の珍品なのか、誰かが作った新作落語なのか。
ならたまたま知っている私が書く価値があるだろうと思って。
とはいえ、私もテレビで聴いて、どこで知った噺なのか思い出せなかったのだけど。
浅草お茶の間寄席(東京では観られなくなった)あたりでやっていた、芸協新作だったか? なんて。確かにいにしえの芸協新作ぽさもある。
ようやく思い出したのだが、三遊亭竜楽師のCDにこの噺収録されているのである。
畠山健二氏の新作落語。つまり今流行っている擬古典落語のひとつということになる。
畠山健二氏は「本所おけら長屋」の作者。時代小説大好きの私だが、まだ読んでません。
つる子師は、直接竜楽師に教わったのでしょう。
女性の登場人物、それもアホというのが、つる子師の考える理想の落語に引っかかったのだろうと思われる。
この噺の主人公、箱入りのお嬢さんの造形は、古典落語には一切ないと思う。古典落語には、残念なことにアホな女性が出ないのだ。
その疑問点から、私もこんなものを書いた。
落語には、もっとアホな女性が必要だ。
男のアホを軽々演じる桂二葉さんには不要だろうが。
この記事を書いたときには、「箱入り」のことは完全に失念していた。
古典落語になければ、新作の出番である。
箱入りのお嬢さんは、アホとしてかなりのレベルで。この点、画期的な噺。
縁談が成立したので行儀見習いに出るお嬢さん。
奉公人たちは、責任取りたくないので、お嬢さんに最低限のことしか頼まない。
なのに天然で一生懸命なお嬢さん、悪気ないまま、想像を上回るチョンボばかりしている。
拭き掃除を命じられると同じ場所を拭き続け、水をまけと言われると敷地を出て、橋を渡って水をまき続ける。
布団を叩けと言われれば庖丁の刃で叩き、ついには火事まで起こしてしまう。
世間知らずを落語らしく極端に拡大しているのだが、やっていることは「猫と金魚」の番頭さんに近い。
1から10まで完全に言わないと伝わらないのだから。
実はまともにコミュニケーションを図れない人だが、ねこきんのようにそういう部分を強調せず、あくまでも箱入り娘だという前提で作ってあるのが上手い。アホだが個性は与えない。
ちなみに猫と金魚も、現在では古典落語の扱いだが、のらくろの田河水泡の作った新作落語。
コミニュケーションギャップ自体は落語の伝統だが、その中身は新たに作れるもの。
抜擢真打の林家つる子師、最後に聴いたのは半年前の鯉昇師の会。つる子師はシークレットゲストだった。
人気のつる子師が出て喜んだのに、この際のおなじみ演目「お菊の皿」には少々うんざりしてしまった。
その際には忘れていて書かなかったが、この演目一度「Zabu-1グランプリ」で聴いたことがあった。そちらでは中国人幽霊の「王キク」さんが出ていた。そのほうが面白かった。
さて、今回テレビで流れた「箱入り」に関しては、まったく引っ掛からずに聴けた。
これぞつる子師の味だという。しつこさ100%の高座がすばらしい。顔も使う使う。
そして、二ツ目時代に私が魅力を感じていた味でもあった。
演目がピッタリというのもあるだろうし、つる子師が常にしつこさの追求に余念がないのもあるのでしょう。
なんだか変顔の追求に、作法が生まれてきた気すらする。
産経らくごの配信で、つる子師の「芝浜」が流れていた。
観ようと思っているうちに月が変わってしまった。今になって後悔している。
もちろん芝浜は、しつこくやる演目ではない。
こんな記事もかつて書いたので、聴かないとならない。

