しん華さんのぞろぞろ、サゲ直前に床屋が「わらじがゾロゾロ出てきたように、私にもご利益を」と願っているのが丁寧。
なるほど、お稲荷さまはそのままの希望を叶えてくれたのだ。
シャレばっかり言ってる婆さんは、「わらじバカよね」だって。
ご本人が「坊主は快適だった」なんていうと、むしろ生々しいのであった。
あの一門はつくづく坊主にするのが好きなようで。
トリは三遊亭らっ好さん。
そういえば先の2人は芸協で、亭号は桂。
東京の落語界、桂はそんなに目立つ存在ではないのに、神田連雀亭では結構多い。
連休明けというのは、お客さん少なめですね。
といって、連休中多いわけじゃないんですけど。
我々出番そんなにないので、旅に出ました。弟弟子の好二郎と、兼矢です。
2週間で10席やりました。
私が長崎、好二郎が大分の九重町、兼矢が山口県(岩国)です。西のほうの出身の3人があのあたりを回ったんです。
2週間一緒に行動すると、まあ仲が悪くなりますね。
兼矢というやつは、一番下なんですけどいつも上目線で。
「アニさんたちはわかってないですよ〜」みたいなこと言うやつなんです。
大分に行ったとき、送迎していただいたんです。
窓の外は一面の麦畑です。好二郎が「稲穂が綺麗ですね」なんて言うんです。まだ田植えも済んでないのに稲穂のわけないだろうと。
私は「小麦だよ」と言いました。
そうしたら兼矢がスマホをいじって、「この辺りの名産は、大麦ですね」。
お寺のご住職が非常に親切で丁寧な方で。いたれり尽せりのおもてなしです。
兼矢が「ご住職にお礼を言います」と。
「ご住職、神ですね」
「仏です」
しくじってました。
円楽党では、後輩だったら弟弟子っていつも言う。
らっ好さんは好太郎門下で、後のふたりは兼好門下。好楽師の孫弟子という点は同じだが、だから弟弟子だというわけでもなくて。
以前、らっ好さんの本当の弟弟子で「はしびろ好」という人が入ったとマクラで話していたが、前座にならずに辞めたようだ。
相変わらず前座不足である。
そういえば旅とは関係ないが、らっ好さんが出た(中退)である長崎大学のオチケンがなくなるというニュースがあった。
本編は、旅とは関係なく悋気の独楽。
一応、旦那が丸坊主にされる噺付属のマクラは振ってある。
いつも明るいらっ好さんだけあって、世界一ポップでライトな定吉。
ふざけている定吉までは普通だが、地に足のつかない造形は珍しい。
これ、意外といい手法だと思った。
旦那に「スケベ」と呼びかけるのが不自然じゃないのである。
ほとんどの場合、旦那にわざわざ見つかるために声出してるからね。
おかみさんに呼ばれて、「旦那がおかしいんだよ」。
「今ごろ気づいたんですか」というやりとりも、ポップな定吉なら失礼な感はない。
最近落語のメタを考えるにあたり、この噺「寄席に行ってくる」をみんな膨らますなと思ったが、らっ好さんはこの方法論は採らない。
妾宅では、ぐずぐず時間を掛けない。
旦那は早く帰れと言ってるし、お妾さんも引き留めてるわけじゃない。
辻占の独楽は定吉が勝手に見つけ、勝手におねだりしている。
店に帰ってから、おかみさんにバレて独楽を回すシーンに感心した。
定吉が3つの独楽を配置する場面が、随分と立体的。
2回めで定吉は、下手のいちばん遠くにお妾さんの独楽を置き、中央から上手に並べて旦那の独楽、そしておかみさんの独楽を配置する。
最後に回すおかみさんの独楽が旦那の独楽を追いかけ追いかけ、そして旦那の独楽が逃げる様子が見事な画になった。
真打もよく掛ける噺だが、ここまで立体的な画が見えたことはない。
お妾さんの独楽を回しながら定吉、場所がわかったのでまたちょくちょくゆすりに出かけますだって。
ポップな定吉だから大丈夫。
人情噺だったら最適だったけど、でも面白かった。
帰ろうとしたら、昼席を待つ人が並んでいた。なんで?
ワンコインの最中、物音がしたのでおかしいなとは思っていたのだが。
昼の顔付けは「寸志・がじら・小ゆき・栄富満」。
高齢二ツ目の立川寸志さんは最近受賞もして一定の人気があるだろうが、それでもまるでわからない。
この日は本当、仕事しててももうフラフラでした。
一年にいっぺんあるかないかという大変な席だった。
(追記)
三人旅のために作った手ぬぐい広げて見せてくれたのを思い出しました。
3人の「足袋」がデザインされているもの。
らっ好さんの奥さんがデザインしたそうです。

