柳亭市馬師の「かぼちゃ屋」続き。
世の中に対し、正面からではなく斜っかいに向かい合っている与太郎がすばらしい。
人情噺の唐茄子屋政談もいいけども、のんきに世の中フラフラ生きてる与太郎のかぼちゃ屋、好きだなあ。
「上見て売れ」の仕込みが丁寧。
おじさんがこれ以上は教えなくていいなと説明を打ち切っているのがよくわかる。丁寧だ。
やり過ぎて「あれ、これ伏線だよな」と初心者に強く意識されるほどでもないのが絶妙。
市馬師の噺というのは、やりすぎる部分が非常に少ないという印象。その分、割と普通に見えることはあるかもしれない。
実際には隅々まで行き届いている。
もっと長い時間ある場合、「かぼちゃ食うやつがいて、売るやつがいて、と世の中を達観する与太郎」というくだりも入るのだろうか?
でも、寄席のトリでは出ないかな。
「唐茄子屋でござい」を教えてくれる通りすがりの人は、あまり怒ってない。与太郎も「怒って行っちゃった」って言わない。
行き止まりでアタフタして格子を傷だらけにし、裏長屋のお兄いさんにひっぱたかれそうになる。
この際、作為なくして最速で相手の懐に飛び込む与太郎が気持ちいい。
与太郎を気に入るお兄いさんが変わってるのではない。与太郎が魅力的なのだ。
落語の客から見てもそう。この点はやはり師匠譲りなのだ。
「上見て売る」与太郎、たまらないね。
掛け値がなくておじさんに叱られる与太郎。
「ライスカレーはシャジで食う」というセリフ、久々に聞いた。「ライスカレーは食いにくい」ってのは聴いたが。
市馬師は会長降りたこれからがピークのはずなので、聴いていきたいものです。
続いて、柳家以外で唯一の顔付け、落語協会常任理事の五明楼玉の輔師。
前半は、前回柳家花飛師の披露目の際に聴いたのと同じ、二世噺家漫談。
2歳から落語やってる同期の花緑師、正蔵三平兄弟、そして木久蔵親子。
笑点は落語が苦手な人がやる番組ですが(拍手)、ただ木久扇師匠が抜けたので、こういうこと言えなくなってしまいました。
木久扇師は笑点ではバカに見えるが、楽屋ではもっとバカです。
わかっていても面白い。語りのタイミングだけなんだけど。
マクラの延長のように、病院で出欠をとるお婆さん。
そこからなお、マクラが続いているように本編へ。
どこかで聴いた噺だ。ガンの告知をする際に悩む医師、財前先生。
もしかすると、前回寝てしまった高座でもこの噺が掛かっていたかも知れない。
別に退屈して寝たわけではありません。
この日唯一の新作だが、演題は調べたらすぐわかった。「財前五郎」。
白い巨塔ですな。でも、全然関係ない。
ガンは完治する程度の軽いものなのだが、とはいえ告知で患者がショックを受けすぎることも考えられる。
看護師の意見も取り入れ、テストを受けさせて告知の耐性を調べる。
「がんもどき」とか、ガンの付いた言葉を患者の前で発して様子を探るとか。
最後に捻ったオチがついてる、呑気な噺。
続いてにゃん子・金魚。
客席からバナナの差し入れというのは、話には聞いていたが初めて目撃した。
金魚ちゃんにはバナナ。にゃん子先生にはカップ焼酎(おつまみ付き)の差し入れ。
ところでなんでネタで「ウーバーイート」って言うんだろ。いくらなんでもテキトーすぎないか。
昔は「この人年金もらってんのよ」だったが、現在は「この人後期高齢者よ」。
仲入りは主任の弟弟子、扇辰師。
今日はちょっと涼しいね、ただ楽屋で聴くのは、涼しくなると疲れが一気に出るねってことだね。
差し入れがあったので高座から感謝の意思を述べる。
私今日は主任でもなんでもないのにありがとうございます。
本編は田能久。
扇辰師の田能久、数えたら4度目だ。別に嫌いな噺じゃないけども。
ちなみに、サゲが変わっていた。「たぬきのキンは八畳敷」の先がある。なんだっけ。
今年は巳年なので、正月の用賀で田能久出るんじゃないかと思ったら、そのときは出なかったが。
ただし正月に談吉・三三と二席聴いた。そちらは、峠の具体的な地名が出ていたが、扇辰師のものにはない。
田能久はどちらかというと夏の噺なのでありましょうか。
うわばみは夏が似合う。
さすが、いいテンポ。
久兵衛さんの、母親が心配なので芝居を離脱し、ふもとで反対されるが夜中の山越しを決行し、化け物に会うまでまるでムダがない。
化け物に遭遇してからもムダがない。とっとと食わせろと言われ、たぬきの化け芸で難を逃れ、そして一方的に弱点を教わる。
峠を降りて、村人にうわばみの弱点を訊かれ、躊躇しつつも教える。
そしてうわばみ退治もスピーディ。
扇辰師の描くうわばみの爺さん、人を食った感じで(シャレでなく)憎めなくて好き。