柳家小はぜさんの加賀の千代フルバージョンの続き。
隠居に20円(ホントは10円あればいい)借りに行くくだりからは、よく耳にする加賀の千代。
年末には、フルバージョンどこかでやると思うが。
お前さんはご隠居に可愛がられてるんだから大丈夫。朝顔や釣瓶取られてもらい水。
とは言え最初から10円貸してくださいと頼むと、たびたびだから5円にされるかもしれない。
掛け値するの。
女中のお清さんの描写が、かみさんによって語られる。
細かい部分は忘れてしまったが、とにかくいろいろ残念なご面相で笑ってしまう。
だが、客に変な感じを与えはしない。かみさんが、悪口ではなくて、ただ「あの人ね」と甚兵衛さんに確認するためだけに、評価を加えず語っているからだ。
すごい手法。
隠居は甚兵衛さんが来てくれて大喜び。
呼びにやろうかと思ったぐらいだが、悪いと思って遠慮してたそうで。
まずいまんじゅうで笑い取ったりしない。実際まずいのだけど、これはあくまでも甚兵衛さんが頼みごとがあって来たことを明らかにするだけのツール。
お前さん、腕はいいのにまた仕事しなかったんだねと隠居。
これは聴いたことのないくだり。甚兵衛さんの背景が一気に膨らむ。
意を決し20円貸してくださいと頼むが、かかあの予想を裏切り甚兵衛さん極めて軽くOK。
軽すぎてうろたえる甚兵衛さんに、なんだい120円かい、220円かい。520円かい。お清、本家に行っとくれ。
隠居さん、もう少し驚いてください。後が続けづれえと言ってやり直す甚兵衛さん。
この際、玄関口の挨拶からやり直したりしない。「20円貸してください」。
うわあ、びっくりしたあとノッてくれる隠居。
入れごとしない古典落語の強さを思い知る。
ずいぶん前の一時期、一之輔師のギャグたっぷり加賀の千代で喜んでたのを思い出す。
小はぜさんの加賀の千代は、あれに対する見事なアンチテーゼ。
別に小はぜさんにそんな意図があるというのではない。あっても驚かないけど。
素晴らしい一席。
今日のタイトルにしないのが実にもったいない。
トリは立川うぃんさん。
この人も楽しみにしてはきたが、わずかに二度目。期待が裏切られることだって、ごく普通にあるかもしれない。
しかし見事なトリ。しかも前回と感心した中身が大きく違う。
前回(転宅)は、余計なことをしない本格派という印象。ただし必然的に笑いは控えめ。
市馬門下にこんな人いるねという印象。
今回は、既存の噺を膨らます創作力に感嘆した。
入船亭っぽいなと。
いずれにしても私が立川流に抱くイメージ(好き嫌いを問わず共通して見出される)とは大きく違い、落語協会っぽい。
落語協会っぽければいいってことじゃないけども。
トリの立川うぃんです。その正体はただの受付です。
お客さんが11人です。男の方が10人。楽屋も男ばかり4人です。
女性のお客さんが一人いらっしゃるおかげで熱中症にならなくてすみます。
とにかく勢いいい。そして、客の顔を満遍なく見回す。
なかなかこういうことはできない。目を合わせた客は、演者に自然と好意を持つ。
ちなみに、受付でもなかなか愛想が良かった。
なお、「一花」「あお馬(抜けた)」「鳳月」「好志朗」が受付で愛想いい四天王。その次ぐらいには。
今日は一皮剥ける話をします。
一皮剥けるといえば、明烏か、宮戸川か。まあ、明烏でしょうと。その通り。
若旦那が家に帰る前に、源兵衛に捕まってお稲荷さまに行きませんかと声を掛けられる場面から。
その代わり、家に帰ってからは早い。
若旦那は学問好きで、そしてお祭りで太鼓叩いて楽しんでる若者だが、この描写に違和感がないのがまずすごい。
明烏は二ツ目もよく掛けるけども、この部分に違和感ないものはなかなかない。
当たり前で、そんな若者はいないからだ。
うぃんさんは、架空の若者を肉付けしようとせず、どうやら「こういう人」として語るらしい。
これが、「町内の札付き」のスムーズさにつながる。
お祭りでなんだか土を集めている人がいました、と入れ事。
町内の札付き、と当の源兵衛太助に語ってしまう若旦那。
さらに、悪の権化とまで。
源兵衛、俺がゴンでこいつ(太助)がゲだなと受けている。
今後全編を通し、源兵衛太助が「札付き」を繰り返して引用することになる。
ここから先、別に特殊なやり方があるわけではない。
だが導入部分が面白く、勢いもいいのでずっと楽しいのだった。
むしろ二宮金次郎とか、振られた朝の描写とかそういうのを抜いているだけ、軽やかといえる。
甘納豆は入れてた。
源兵衛と太助のキャラを、あまり強調しない。
いい明烏のイメージは、むしろ逆で、二人のキャラを描き分けたものを私も評価している。
うぃんさんは逆で、狂言回しとしての演出である。
若旦那と同様、記号っぽい。
不思議な持ち味。
勢いを保ってサゲへ。
この様子だと、引き出しがまだ多数ありそうだ。
楽しみな人。
1時間半、ハズレなしの連雀亭でした。