50周年記念芝落語会(上・桂れん児「一目上がり」)

5日は東京かわら版で見つけた会へ。すぐ予約しておいた。
入船亭扇遊師と柳家蝠丸師の二人会。
もっともっと聴きたい蝠丸師は1年ぶり。私には少々蝠分が足りないので補給しに。

この会、芝落語会50周年という壮大なものだが、参加するのはそもそも初めてだ。
この会がなければ、梶原いろは亭のなかよしおじさんズへ行っていた。

高輪区民センター内のホール。白金高輪駅直結。
この施設には港区の図書館があり、たまに使わせてもらっているがホールは初めて。
ちなみにふたつの建物からなるこの施設は、1階が正面の国道1号に面し、5階が裏の崖の道に接している。
坂道好きにはたまらんスポット。

記念の会といってもホールのキャパがあるのできつきつの入りではない。

舞台には白いスクリーンが据え付けられている。
この会の50年前のもようをスライドで振り返るイベントだ。
圓生、志ん朝、圓楽、談志が一堂に介した会。すごい。
この会は、なんと客も着物限定。
演者は人力車で乗り付ける。

このスライドショーが終わった後、大きなスクリーンを舞台下に格納し、舞台にフタをし、後ろから高座を持ってくる。
緞帳ないのでむき出し。
この作業を、ホールの若い人ひとり以外すべて落語会ボランティアのご隠居さんたちでする。高座を前に出してくる力仕事も。
なかなかすごい眺めだ。重い高座を運ぶ隠居を手伝って差し上げたい。
高座はハコウマの上に板を乗せて作ってある。
前座さんは担当外らしくて、高座の設営にはタッチしない。

記念スライドショー
一目上がり れん児
仙台高尾 蝠丸
ねずみ 扇遊
(仲入り)
厩火事 扇遊
さじ加減 蝠丸

 

前座は桂れん児さん。メクリは開口一番。
かなり上手くなっていて感心した。
ただ、将来の名人志向なのか間をやたらと取る。
若いんだからもっとスパスパ進めてもと思わないでもないが、これで型ができてるのだから余計なお世話であろう。
間を取る理由が「ウケたい」であるなら、それは前座がときに感染するウケたい病の症状。
いっぽうれん児さん、ウケたい気持ちがそもそもなさそう。だから上手い。

高校で同級生から別に面白いとも思われていなかったらしい平凡な青年が、落語界でどう出世していくか、そんな見本。
きっと素直な人なんでしょうね。

れんじだけに、お客さまをあっためるのが仕事です。
微妙な反応が好きです。
横丁の隠居さんに八っつぁん熊さんなる若者が訪ねてきますと落語の幕開けです。
この隠居さんという人、だいたい横丁に住んでます。あんまりマンションの8階に住んでる隠居はいません。

マンション8階、は確かに聴いたことないが、「バス通りの隠居」とか「高架下の隠居」と同様、基本中の基本のクスグリに過ぎないのに笑ってしまう。
こういうところが期待大。

八っつぁんが遊びに来る。ヘコの間に新しい絵が飾ってあるのを見つけて質問する。
ありゃ笹っ葉の塩漬けですかい。
雪折れ笹てんだ。

めでたい席なので一目上がりを選んだみたい。

八っつぁん、面白いことに隠居に「こういうときは褒めたほうがいいんすか」「どう褒めたらいいんすか」と尋ねている。
八っつぁんに質問させると意外なぐらい自然な流れになる。

大家のところで「ガラだな」、先生のところで「八五郎殿」と呼ばれるのも簡潔でいい流れ。
ただしアニイの家では、誰だと問われて「八五郎様」「八五郎大明神」と自分で名乗っている。

この噺はできるだけ簡潔にやったほうが、ずっと面白い。
それを再認識するいい一席。
一目上がりの得意な小痴楽師だって、中身はシンプルだ。
そしてギャグで狙わない。

二人会は柳家蝠丸師から。すなわちトリ。
ちなみに扇遊師が1年先輩で、ひとつ年上。

芝落語会50周年だそうでおめでとうございます。
第1回に私出てまして。そして50年ですよ。
第1回は鯉昇さんと組んでなにか高座以外にやった気がしますが、覚えてません。
今度は100周年記念に呼んでいただけるのではないかと期待しています。

先輩で、それはそれは女性のことが好きな人がいまして。
若い頃から女大好きという人です。浮気し放題で、よく喧嘩してます。
この先輩が言うんです。「俺は人妻が大好きだ。それも、幸薄そうな、影のある人妻が大好きだ。ずっと不幸そうな人妻を探してる」。
うちに帰れば不幸そうな人妻がいるんですけどね。

ここから先、なにせ地噺なので、マクラだったか、本編の脱線だったかすでに記憶が定かではないことを断っておきます。

本編のほうは「高尾」。
私は演題をこう認識していたが、今回蝠丸師は「仙台高尾」と語っていた。
こっちのほうがわかりやすくていいと思う。

7年前に国立演芸場の仲入りで聴いた噺。
脈絡ない噺だからさすがにあまり覚えていなかったのに、今回聴いて色々と蘇った。
人間の記憶のメカニズムは面白い。
冒頭の幸薄い人妻の話も、実は高尾用のマクラ。

吉原の二代目高尾太夫と仙台公のロマンスの噺。
歴代の高尾太夫には、六つ指高尾、紺屋高尾、中央線の高尾などがいる。
盃の殿様や、伽羅の下駄も、仙台公と廓の噺。
高尾を身請けする仙台公だが、言い交わした男のいる高尾はなびかない。
ただ脱線のほうがメインで、たまに「高尾はどこまでいきましたかね」。

仙台高尾は二代目の高尾だったんです。
二代目は出世するんです。私も実は二代目で(拍手)。
柳家蝠丸っていい名前なんですけど、ちゃんと読んでもらえないことがあります。
「コウモリ丸さん」
これなんかいいほうで。真打になってラジオに出たとき、本当に言われたんですよ。
「ウジムシ丸さん」
なんでウジムシなのかと思って辞書引いたら、漢字似てるんですね(蛆虫)。

続きます。

 
 

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