たまに書いてる「昔ながらのオチ(サゲ)分類」シリーズです。
2020年に始めたこの不定期連載、もう5年書いて、すでに既存のオチ分類はだいたいクリアしている。なので、いつ終わっても構わない。
フィニッシュは「シャレ落ち」という、既存の分類にないものを想定している。どこが「昔ながら」なんだというのはさておき。
今回も着地に向かって一歩進むための内容である。
既存の分類に「地口落ち」がある。地口はべらぼうでちょっと注目されている。ありがた山の旅がらす。
地口落ちがあれば、新たに「シャレ落ち」なんていらないのでは。
これがそうでもなくて、たとえば「小間物屋政談」。「もう背負うには及ばん」なんて、地口ではない。
でも、よくできたシャレではある。
シャレとは、作為の産物なのだ。
既存のサゲ分類は、非常に客観的にすぎる。
大事な、作為の存在が抜けているように思えてならない。
今回は「作為」を基準にした分類に向けて着陸態勢に入るため、登場人物の行動に着目してサゲを考えてみることにする。
テーマは「しくじり」。「失敗」と言ったほうがわかりやすいのだが、まあ落語の世界っぽい用語で。
しくじりは、作為が不首尾に終わったもの。落語の基本中の基本である。むしろ、なぜここに着目した分類がないのだろうと。
今回を機に、サゲにおける行動分類に向かう可能性もある。
落語の演目のサゲにおける「しくじり」要素を見ていきます。
子ほめ
前座噺のサゲというのは、捻りのないものが多い。
だが、登場人物の行動に着目して捉えると、平凡だと思ったサゲが、意外とイキイキして映るのである。
オウム返しものは、最後だいたい失敗して終わる。
失敗の原因は大体は「間抜け」。だからサゲは間抜け落ちに分類されたりする。
でも「間抜け」という属性はむしろ失敗の原因であり、本当は「間抜けなくせに一丁前に行動しようとする」ところに共通項があるのではないだろうか。
子ほめは典型例。
「どう見ても、半分でこざいます」
タダでございますでもよし。
間抜け落ちというより、しくじり落ちなのでは。
牛ほめ
家ほめが(すったもんだあったが)無事済んで、おじさんに褒められた与太郎。
もう一つ牛を褒める。
牛を褒めるまではよかったが、与太郎、父から仕込まれていない創意工夫(応用)を始めてしくじる。
「穴が隠れて屁の用心になります」
これを「地口落ち」で済ませていいのか。
牛ほめの笑いの本質は、「火の用心」のシャレなんかではない。
柱の節穴と牛の肛門とを一緒にしてしまう与太郎の豊かな発想にこそあるのであって。
時そば
時そばもオウム返しの変形。教わったわけじゃないが、勝手に学習する。
ただ、サゲは作為ではなくて、不注意とでもいうべきもの。
昨晩より早く出てしまったという。とはいえ、これもしくじりではある。
2軒目のそば屋がひどいのは、別に主人公のしくじりではないのだが、しかし店の選択失敗までもが失敗の一部だというところが、気が利いている。
この点、時うどんは似て非なる噺。
アホの喜六は、まずいうどん屋に当たったわけではない。昨夜の2人で成り立つ行動を1人で遂行するので、笑いになる。
よく考えたら喜六のしくじりは、全てが作為に基づくものなのだった。
禁酒番屋
酒のしくじりは落語になりやすい。
失敗してない「試し酒」はよく考えたらかなり変わった噺である。これは酒の噺ではなく、超人の噺なのかもしれない。
親子酒も猫の災難も、みな酒でしくじる。
やや違うのが禁酒番屋で、これは敵対する側が失敗する噺。
しょんべんです、と断ってしょんべん飲ませた酒屋は大成功。
しかし、この噺もやっぱりしくじる側への思い入れが強いと思うのだ。
「町人にとって、威張っていて怖い存在だった武士を嗤う反権力の噺」と見たい人もいるだろうが、違う気がする。
これは、久々の酒にありつけてつい欲をかく噺だと思う。だからやはり「してやった」より「しくじり」が根底にある気がする。
これは従来の分類だと、権威が裏返る「逆さ落ち」? なんだか違う。
ちなみに禁酒番屋の裏返しにあるのが「饅頭こわい」では。
やっつけてやろうとして返り討ちに遭う噺。
ちりとてちん
禁酒番屋と饅頭こわいのことを考えていたら、もう一つ浮かんできた。
ちりとてちんも、禁酒番屋に似ている。
腐った豆腐を食わされる寅さんは、この日格別のしくじりをしたわけではない。平常運転。
しかし平常運転であるがゆえに、後ろに引けなくなって危険な食い物に挑む羽目になる。
この噺もまた、お仕置きする隠居よりも、しくじる人物のほうにスポットライトが当たっている。
芸協でよく観るのが、寅さんが覚悟を決めて、豆腐を一気喰いするシーン。
性格悪い寅さんだが、意外とカッコいい。やはりこちらが真の主役なのであろう。
従来の分類だと、とたん落ちか。
そば清
勘違いによる失敗で命を落とす、レアな噺。
それ以外の結末はあり得ないけども。
従来の分類だと「逆さ落ち」か。ひどく漠然としている。
今日は一旦ここまで。
しくじりによるサゲはまだまだあるので続けるかもしれない。