最近ご無沙汰の実力派、三遊亭鳳志師を聴きに、亀戸梅屋敷寄席へ。
会場、椅子を40人仕様にしている。入りは半分ぐらい。
2列、4列、2列で、縦は5列。後ろに楽屋を作っている。
このところずっと盛況だったので意外だ。仲入りは円楽師なのに。
世間は披露目疲れなのであろうか。
まあ、つ離れしない日もあるのでしょう。
受付は元気なげんきさん。
| 元犬 | げんき |
| 代書屋(改作) | 兼矢 |
| ろくろ首 | 円楽 |
| (仲入り) | |
| へっつい幽霊 | 鳳笑 |
| 徂徠豆腐 | 鳳志 |
げんきさんはますます声が大きくなっている。
諸注意のあと、元犬。
前座噺だが、意外と本物の前座からはそれほど聴かない噺。
転失気と並び飽きた噺の筆頭だが、その分いい元犬はすぐわかる。
今まで聴いた元犬ベストは、三三師。次に花いち師。
いずれも、結末を大胆に変えたものである。
げんきさんの元犬も、3位に置いてもいいなと思った。ただしいじったのは結末ではなくて、なんとシロが口入れの上総屋さんに向かって、先ほどまで犬だったと自白している。
犬バレ元犬。
ただ、元犬という噺、もともとシロにとって正体を隠す必要性はないのである。
シロが今朝がた人間になったのを話さないのは、ただ訊かれていないからなのだ。
げんきさんのシロは、上総屋さんに、今までなにしてたんだいと訊かれたので、素直に犬でした、八幡さまの門前にいた白い犬でしたと答えているのだ。
犬の出であることは上総屋さん、あっさり信用してくれた。ただ今度は、奉公先の隠居にバレちゃいけないというタスクをシロに与える。
これにより、人を欺いたりしないシロが、身バレを防がねばならないという使命を持つことになるのだ。
なかなか画期的。とはいえ、当人は素直なので隠居の前でそんなに気を遣っているわけではなく、上総屋さんがやきもきしている。
でも、「ほいろ」に大して素直なシロ、今からやりますからねと言って、たっぷり吠えまくる。
前座が高座で「アオーン」と吠え続ける元犬なんて初めてだ。
でも変わりもんの好きな隠居、シロを気に入ってくれた。
なのでハッピーエンド。
サゲは「お前さんおもしろいね」「頭も白いんです」。
このサゲは普通のスタイルの元犬で、誰かから聴いたことがある。
犬バレ元犬、高座ではまったく初めて聴くのだが、実はえほん寄席の元犬がこうだった。
冒頭いきなり、上総屋さんがおまえさんは犬だったってのかいとシロに話しかけている。
若いげんきさんもきっと、えほん寄席見て育ったのであろう。
語りは桂南喬師だったが、南喬師がこんなスタイルの元犬持っていたわけじゃないと思うのだが。
犬バレの前にも工夫がいっぱい。
奉納手拭い巻き付けるのだが、わずがに足りなくて、前がもろ見えとか。
上総屋さんの裏っ手で、桶に入って喜んでるとか。
あと、足を洗いなさいと上総屋に言われるが、「どっちが足でしょう」。
いっぽう、以前女中に水ぶっかけられたとか、拭き掃除のスタイルがハマるとか、おひつのメシ残らず食っちまうとかいうのはない。
むしろ、このメシはおまえさんの分だから全部食べなさいと言われている。
裸足詣りのくだり、「三七21日裸足詣りをしまして。もっとも犬ですからもともと裸足なんですが」という地のセリフ、説明し過ぎで私は嫌い。
現代は、ボケっぱなしがハマる時代である。
げんきさんも同じことを考えているらしい。「犬ですから」で止めている。
こういうセンスが好き。
二ツ目は、げんきさんの兄弟子、兼矢さん。
昇進してから、今ひとつコレという高座に出くわしていない。そんなに聴いてないのもあるが。
今日はよかった。
代書屋なのだが、いつも聴く「セーネンガッピ!」とは、ストーリーもまったく違う。
たまにこの、レレキ書けえてくれの前に、女中のラブレターが入ることがある。それとも内容が違う。
まったく、どこでも聴いたことのない落語。
芸協新作っぽさがあるが、噺の文法はむしろ現代の新作落語みたい。自分で作ったのだろうか。
頭を上げて、「いいですねこれくらいの人数」。
代書屋を振るが、兼矢さんの説明する実在した代書屋は、司法書士や行政書士ではない。
あくまでも、字の書けない人のための代筆業である。
恋文書いてくれと男がやってくる。
代書屋さん、張り切って気の利いた言い回しを考えてくれるのだが、この男にはまるで届かない。
比喩というものが理解できない男。
「君がいないとさみしい」という書き出しに、「そんなにさみしくねえです。犬もいるし」
「君のいない部屋はすきま風が吹き抜けます」に、こねえだ友達のトクに直してもらったんで、吹き抜けねえんすよ。
この面倒くささ、きっと兼矢さんの中にあるのだと思う。
自分の面倒くさいところに気づいてネタにすることで、ネタは説得力を増す。
先日のキングオブコントのロングコートダディ、モグドンのネタにも、「否定から入る人」へのある種の共感があるのではと想像している。
ようよう書き上がった恋文を持って帰ると、名前の出たトクが飲みに行かねえかと誘いに来る。
面倒くさい男は、今から恋文持ってくんだとつれない。そしてお前のせいですきま風に文句をつけられたと謎の苦情。
トクを置き去りにして男は彼女の元へ。
代書屋なので男は無筆なのかと思っていた。ちゃんと字は読めるのであった。なので彼女の前で読む。
やっぱり噺の文法が新作だなと。
不思議なじわじわ感に包まれる噺であった。
3時半にハネて錦糸町まで歩き、今日の記事35分で書き上げた。
早いだろう。