東博寄席 その1(三遊亭兼作「ん廻し」)

2日日曜は珍しめの場所へ。
東京国立博物館で、東博寄席。
七代目三遊亭円楽襲名披露である。
会場は、正門入って左手奥の平成館。ここに立派な講堂がある。
人数はたっぷり入るので満席にはならない。150人ぐらいかな。
入場券で常設展示が見られるということなので、早めに行って巡ってきた。
今運慶展をやってるが、これには入れない。

1時の開場と同時に講堂へ。
スマホは電波が入らない。スクランブル掛けてるんだな、立派だなと思ったのだが、単に著しく電波が入りにくいだけみたい。
ともかく、30分寝ることにする。
熟睡してスッキリしたのに、トリの円楽師で若干うつらうつらしてしまったのは不覚である。

2時間半のたっぷりした会であった。

元犬 げんき
ん廻し 兼作
よっちゃん 楽麻呂
おさん茂兵衛 好楽
(仲入り)
七代目円楽襲名披露口上 円楽・好楽・楽麻呂・ぽん太
洒落番頭 ぽん太
宗珉の滝 円楽

 

前座はげんきさん。
つい先日聴いたばかりの犬バレ元犬である。
聴いたばかりでも、精緻な作りなので全然楽しめる。
クスグリがさりげないのはいい。
これは前回書かなかったが、「みんなが人間になれるなれるというものですから当犬その気になりまして」。
ここでツッコミを入れないのが現代ふう。

犬であったことを白状する、変な元犬だねと客も思うだろう。
でも隠居とシロの顔合わせはしっかり進む。
チンチンとホイロの実演。ワオ〜ン。奉公ならぬ咆哮だ。
ここで隠居がさっそく「お前さんいい!」。
人生前向きになれる元犬だ。
従来のものは、落語らしくはあるが、奉公したいシロがしくじって終わる噺である。
ポジティブに作り変えたほうが楽しいという、ステキな前座噺。

続いて、げんきさんのひとつ上の弟子、二ツ目に昇進して間もない兼作さん。
前座時代はけろよん。
私のイチオシ前座だったのだが、最近はあまり聴けてなかった。
両国での披露目も行かなかったし。
本日の隠れ目当て。
羽織を着た姿を見るのは初めてだ。

兼作と申します。いろんなところで活動してますので、お手持ちのスマートフォンでけんさくしてください。
こんな立派な会場があったんですね。知りませんでした。
私は父が絵描きです。父は毎年東京都美術館に出展してますので、上野でも、そちらには子供の頃からなじみがありました。
同じ上野で、父は都立。私は国立。
今度父に会ったら自慢します。

今日は円楽師匠の襲名の披露目でして。
円楽師匠にはずいぶんお世話になっています。なにしろ、襲名披露で全国に行きましたけども、前座として連れていってくださったんです。
落語界は階級社会でして、前座を3〜4年やって二ツ目です。それからもう10年修業して真打ですね。それからまた何十年経つとご臨終です。
さっきげんき君が出ましたけども、今前座がふたりです。
私のときも前座が3人しかいなくて、人手不足でなかなか昇進できないかもなと思ってました。
でも、円楽師匠に連れていってもらったことで、幹部にも伝わったんじゃないでしょうか。
なにせ円楽師匠は、これからの一門会を引っ張る人です。政治的な手腕も発揮します。
こいつを昇進させれば、円楽が喜ぶぞと。
そんなわけで忖度で二ツ目になりました。

若い衆が集まっている。アニイが飲もうぜと水を向けるが、誰一人持ってない。
アニイの味方する男がひとり。そうだお前ら、いつも世話になってるくせに出さないなんてありえない。
しかしこいつも持ってない。
「味方からも取るんですかい?」
これは面白いな。高い創作力がうかがえる。

あたしのふところは、夜明けの銀座ですね。なんとなく寂しい。
あたしのふところは、この会場のお客さんですね。なんだか寂しい。
なんてこと言うんだ。寂しくなんかないよ。

幽霊の仕草をする男がいる。
半立ちになって、「うらめしや、いや、ちんちん。うらめしや」。
元犬に被せたかったのだけど、間違えちゃった。
自分で「間違えんじゃねえよ」とツッコミ入れて処理。
これは「おあしがない」のシャレ。

寄合酒かと思ったら、酒飲むのは諦めた。
アニイのおごりで豆腐の味噌田楽が大量に運ばれてくる。
ん廻しである。

野菜を言えばいいと思ってる男は、なかなか「ん」のついた野菜が言えない。
多くの演出では「きゅうりんとまとんなすびん」とやるが、異なる道を行く。
んのつかない野菜を延々と、「じゃがいも、さつまいも、さといも」。
もじゃねえよ、んだよ。

パンプキンも入っていた。客に大ウケ。
でんでんむしむしを歌って2本だけ、も。
パンプキンとでんでんむしは、故・雀々師発祥だと思う。

妊婦さん3人妊娠安産、なんてのもあった(うろ覚え)。

フィニッシュは長い言い立て。
先年、神泉苑の門前の薬店、玄関番、人間半面半身、金看板銀看板、金看板根本万金丹、銀看板根元反魂丹、瓢箪看板、灸点

兼作さんのは「門前の薬店の玄関番」だった。「の」がひとつ入ってる。
2回言ったので86本で落とす。
ん廻しは、芸協だったらだいたい小遊三型。
落語協会ではほとんど見ない。わずかに美馬さんから、今回と同じ寄合酒に行かないん廻しを聴いた程度。言い立ては違っていたが。
どこから来たのだろう。

けろよん時代は実に上手い前座であったこの人だが、兼作になると、「成り立てにしては非常に上手い二ツ目」に進化している。
まっすぐ育ってよかったよかった。

とにかく語りのリズムがすごい。
グッとためてパッと出す。食い気味にセリフを被す。
早い調子でテンポが定まってくるとゆっくりして崩す。
もう、それはそれはさまざまなワザを活用。

もっとマクラが楽しければもう満点。
神田連雀亭はいつ出るかわからないが、スタジオフォーの巣ごもり寄席で兼作さん聴けそう。楽しみにしている。

続きます。

 
 

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