あかね噺アニメを観る(第8席)新作落語に関するありふれた勘違い

可楽杯本番。

審査員、上方落語の榊龍若は、大忙しで東京来ることあんまりないんだそうだ。
忙しい人は絶対に東京来るけどね。

今回は、練馬家からし君について。
からし君は2連覇中。可楽杯は優勝してもまた出られるらしい(現実の策伝大賞はNG)。
からし君はもちろん、古典落語に対するアンチテーゼとして登場している。
だからからし君は視聴者に対して「あれ、なんかもっともらしいこと言う人だけど、たぶん古典落語に否定されるんでしょ」と映る。
ところが、もう一段外から構造を見てみると、「その古典落語に対するカウンター、カウンターになってないぞ」となるのである。

古典落語の世界へのとっつきにくさを、からし君はまず「単位」に求める。
そもそもこういう客いるの? いるのかもしれないが、私にはよくわからない。
幼少期から落語を聴いていると、あまり疑問には思わないところではないか。
通貨単位も、江戸時代の落語なら「1両2分」「16文」などと表されるが、これが現代でいくらぐらいになるか知っている必要は別にない。
明治や昭和初期の落語だって、「5円」と現在と同じ単位を使っていても、やっぱりわからないだろう。
気にしなくていいわけで。

もっとも、説明しないで伝えられればいいと思う演者もいる。
「愛宕山」の谷の深さは80尋。尋は「ひろ」。
尋とは、両手をいっぱいに広げた長さ。80尋を描写するのに、「1尋がこのぐらい」と演者が手を広げるやり方がある。わかりやすい。
もっとも、本当に「80尋」がわかるわけじゃない。「1尋がこれぐらいか。これが80…深い谷だね」って感じるだけで、客は換算して理解しているわけじゃない。
わかりやすくなったと思うのは、錯覚に過ぎない。それより、演者の目線でもって得られる「深そうな谷だ」が伝わるほうがずっと大事。
「東京ドーム10個分」と言われて、広さピンと来ます? そう言われて、わかったような気がするだけなのである。
それで十分。

そして、アンチテーゼとしての新作登場。
だが、新作ではなくて、改作である。
転失気を、大学の研究室に置き換えた噺。
現代でもこうした改作は多数ある。全然、新たな可能性でも何でもない。
そして改作は、原典である古典落語を客に想起させて、初めてウケるもの。
当たり前である。古典落語は強いんだから。
原典である「転失気」を切り離し客にぶっつけようと思うのが、からし君の壮大な勘違い。
まあ、ただこれは仕方ない。
なぜならからし君のために一本、まったくオリジナルの新作落語を書き上げるには大変な労力を必要とするからである。だからやむなく古典のパロディを取り上げ、これが新作落語なんですよということにしている。
これは落語を扱ったストーリーに内在する課題。

「阿良川一生が新作嫌い」というのは、現実世界の談志がそうであった通り。
しかし談志の最も優秀な弟子、志の輔師は新作落語でも知られている人。
談志もそれは認めていたようだ。
現代基準からすると、「談志の新作嫌い」のほうが、ピンと来ないところがある。新作は談志の唱えた「イリュージョン」の宝庫なのに。

結局、からし君は古典落語の世界を借りた落語で勝負しているのである。
古典が古臭いなんて言ってるわりに。

で、たびたび書いてることだが、「新作落語はとっつきやすい。初心者にもわかりやすい」も大きな勘違い。
現実の落語界において、新作落語はファンにとって上級バージョンとして機能しているのだった。上級バージョンだということは、結局基礎である古典落語なくしては成り立たないのである。
新作落語をメインにやる人は、例外なく古典落語大好きな人ばかり。むしろ、古典落語しかしない人よりも。

どうでもいいが皆さん、客席で喋るのはやめましょう。

高座の後ろに、演者と同じ所作をする登場人物が現れる絵はいいですね。アニメになって大幅に進化した部分。
登場人物がみなからしの顔なのもいい。
このあたりはNHKの「超入門!落語 THE MOVIE」を参考にしていそうだが、オリジナリティもあっていい。

サゲも決まった改作落語だが、演題は「BM」。これはいけません。
転失気の改作であることがわからないと演題としては役に立たない。寄席にこの演題で出したら、転失気とツいちゃう。

あかねの先生がからしのことを「練馬家さん」と言っている。
ここはツッコミないが、素人なので何も知らないということで問題なし。
プロに向かって「桂さん」などと呼びかけてしまうパターンである。

あかね小噺で「与太郎」が年齢も属性もバラバラだという話題が出ている。
与太郎という共通性は、実は「役割」(抜けている)しかないのです。
先代小さんは、すべての噺の与太郎を、違う存在としてしっかり描いていたという。でも役割は同じ。

では、また。

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