夢丸師、「たぬき」に入ったが、札でも賽でもなくて、狸の鯉だった。
ネタ帳には「狸鯉」とあった。
恩返しに来た狸です、のくだりから、おなじみの場面はバッサリなくて、早速鯉に化けてアニイの出産祝いへ。
狸の鯉は、落語協会で数年前から流行っているイメージ。だが芸術協会では初めて聴く。
ストーリーは同じだが、細部はだいぶ違う印象。古い型なのか、夢丸師のオリジナルなのかはわからない。
この師匠の場合、古い型とオリジナルは同一地平線上にあるからどちらでも。
恩返しの狸を、鯉に化けてもらって進物として届けるナンセンスな噺。
狸だって捌かれちゃかなわないが、そこは逃げを打ってある。
狸にあらかじめ言い聞かせるのだ。誰もいなくなったら逃げなよと。
しかしアニイが感謝して、女房の乳の出が悪いから早速捌いて鯉こくにすると。
狸の鯉を持ち込んだ八っつぁんは早々消え、アニイと元料理人とのやりとり、食われたくない狸の抵抗が主軸である。
料理には自信のある元料理人だが、この鯉変ですと泣き言を言うので、アニイが疑っている。
でも、変にあったかいし、毛が抜けるし、睨むし、いつまでも震えてるし。こんな鯉は捌けない。
最後は足が生えて逃げていく。
落語協会のほうでは「あれが鯉のまきのぼりでしょう」というサゲだが、夢丸師は「鯉に上下の隔てはねえ」。
越後屋のサゲ流用でしょうか。
マクラからずっと上ずったまま喋り続ける夢丸師、実にもってたまらない。
続いて、三遊亭好の助師。
メクリは達筆すぎてもはや読めない。好乃助にも好之助にも読める。
今日は楽屋が楽しいです。
夢丸アニさんに駒治アニさん、協会が違うのでめったにご一緒しませんが、二人とも人の悪口を絶妙に言い放つ人です。
…いや、それはあなたでは?
人の良さが売りの好楽一門にあるまじき悪態を言い放つのは。
この寄席は2階もあってすごいですね。上まで目線を動かさないと見えないですね。
今日は大丈夫ですけども、女性の方はスカート履いてると高座からパンツ見えそうです。
これはダメだろう。女性を喜ばせる仕事をしてる私の感性は、セクハラにまっすぐ引っかかった。
このホールと比べて、師匠好楽のしのぶ亭を引き合いに出す。
うちの師匠、知名度ないので誰も知らないでしょうけど。
うちの一門は両国が本拠地ですが、打ち上げをサイゼリヤでやります。安いので。
でもさらに安くしたいので、水のペットボトルに日本酒を入れて持ち込んでました。
我々の席だけ日本酒の匂いがするのでバレまして、サイゼリヤ出禁になりました。
そして打ち上げの内容が他の客によく聞こえまして。
師匠は「こないだしょんべん漏らしちゃってさ」とか大声で言ってました。
酔っ払いから、棒鱈。
なんだか変な一席だった。
大森蒲田のくだりはない。他にもいろいろない。
侍ではなくて、田舎から出てきた権助みたいなキャラだし。
「2がちーは、お釈迦さま」とか歌ってるし。てんてこてんですよね。
とはいえ、棒鱈の弟分の悪態はそんなにひどくはない。
別にマクラで悪態つく人だからって、落語までそうだというわけでもない。
仲入り休憩があった。これも意外。
トリは古今亭駒治師。
この席すごいですよね。
そちらから見たことはまだありませんが、なんだか教祖みたいです。安い教祖ですね。
つかみばっちり。
だが、
私、九段下は来るのが楽です。京王線幡ヶ谷ですから一本です。
から始まるマクラが不発気味。
幡ヶ谷駅のパチスロ直結、ホテルのフロント。
そして調布のインターナショナルスクール。
このディープな席にやってきた人にとっては、すでに何度も聴いてるマクラのようだ。
私も何度も聴いてる。
もちろん何度も聴いたからもういいやなんてものではない。
だが、客の多くが何度も聴いてる状態になると、お互い不思議な満腹感が漂うみたい。
もちろん駒治師だって客を見てマクラ振ってるのだろう。
自分の会でよく見る人は少なそうだ、とか。だが演者の想像を超えてディープな客だった。そういうことではないかな。
調布のインターナショナルスクールのマクラも、もっと長く続けられるが、切り上げていた。
本編は上京物語。
5年前に、しん吉師との会で聴いた噺。再度聴きたいと思っていた。
父の仕事を継いでマタギにされそうなので、秋田の妹が姉のいる東京に家出してきた。
慣れない東京の電車で、姉の住む東村山までたどり着くのが一苦労。
東京駅の地下、「きょうは線」に行ってしまい、そして新宿駅でさらに迷子に。
その後娘を追って上京してきたマタギの親父、娘以上に混乱し、湘南新宿ラインを南へ北へ右往左往。
二度目の右往左往はよりエスカレートするのが落語の基本。
東村山の駅前にあるのは西友からイトーヨーカドーに訂正されていた。
妹が東京で観たかったのが、ディズニーランドとスカイツリーと下北沢。
しかし西武園ゆうえんちと田無タワーと下落合に連れてかれる。
下落合って、しもしかあってないじゃん!
ごめん、あたしもあそこまで何にもないとは思わなかった。
親父は、いきなり阿仁マタギ駅から逆方向に乗ってしまう。北海道まで渡った後なんとか東京駅に出て、駅前で野宿する。
朝、オレンジ色の電車に乗れという指示により東海道線で熱海に行ってしまう。
引き返したら今度は高崎へ。そして沼津へ。宇都宮へ。再度東京駅で野宿。
やっと中央線に乗ったら高尾へ。新宿まで戻って西武新宿(ぺぺ)を目指すが、新宿末広亭でぺぺ桜井を観る羽目に。
ストーリーが変わっていて、親父が持ってきた猟銃の出番がなくなっていた。これが歌舞伎町でものを言っていたのだが。
本編は大いにウケてました。
この席しばらく、客を掴むにあたって、演者は試行錯誤するのではないかなと思います。
ディープな客だと思ったほうがいいのでは。