「掛川の宿」は「かけがわのしゅく」と読むはずです。意味的にはむしろ「やど」の気もするけど。
小助六師、マクラの最後に語る。龍や眠り猫をはじめ、全国各地に甚五郎作の彫り物はある。
だが、びっくりするほど貧相なものがひとつあるのだそうだ。どこのなんだったか忘れちゃった。
そういうものを見て回るのが好きだそうで。
音源で聴ける鶴光師の掛川の宿ももちろん素晴らしい。
ただ、鶴光師はなにせ基本フォームがボケ倒す人なので、味わいはだいぶ違う。
基本カチっとしている小助六師が緩くボケを入れていく世界が、たまらなく楽しいのだった。
登場人物が自立して、勝手に楽しくなってくる。
登場人物にあまり近寄らない小助六師の手法がいいみたいだ。
掛川の宿には、愉快な登場人物が二人。親子みたいに見えるが赤の他人。
最初に出てくるのがご存じ左甚五郎。五十三次、つぎはぎだらけの着物。
次に出てくるのが天才絵師の狩野探幽斎。少々年かさで、やはりつぎはぎだらけの着物。
尾張公が参勤の折お泊りになるので、掛川の宿は3日間一般客を泊めない。
そう書いてある立て札を見て、むらむらいたずら心の湧く甚五郎。
ムリに泊めてくれと交渉し、なら仕方ない、番頭も「1両」の法外な宿賃取って、行燈部屋に押し込める。
平気の平左の甚五郎、1分も心づけを出して、ひとり酒を飲んでいる。
こんな奴はいない! だが小助六師はこんな甚五郎を最速で描く。
続けて探幽斎がまったく同じ行動。親子だなと番頭。
また1両獲って、相部屋に押し込める。
挨拶もなしに背中合わせで酒を飲むふたり。
先に入った甚五郎は、挨拶がないのが気に食わない。後から来た探幽斎は、年下のものから声を掛けないのが気に食わない。
でも、お互い飲み相手が欲しいので、背中合わせのまま無言でやったりとったり。
バカげたシーンがたまらない。
小助六師は、このバカげた絵を見事に描きあげる。
腕のない人だときっと、「この絵のバカバカしさ」を説明し始める気がする。
布団は1枚しかないので、トランプの模様のように向かいあって寝るふたり。
年寄りの探幽斎は夜中に厠へ。
殿さまが泊まる部屋をつい覗き、つい金屏風に雀を描いてしまう。
探幽斎が布団に戻ってきて、悪気じゃないが甚五郎の股間を蹴り上げてしまう。甚五郎も目が覚めてしまう。
探幽斎の使った墨がついてしまい、洗いに厠に立って、雀を見物。
これでもう、爺さんの正体を見抜いてしまう。
爺さんに対抗して、床柱に大黒さんの彫刻を施す甚五郎。
こうしてはいられない。夜中に逃げ出したら、探幽斎もついてきた。
無言のまま急ぐふたり。しかし宿の追手が来て縛られてしまう。
でも二人とも、全然へいき。そりゃ、悪いことした自覚はあるから。
こうして振り返ってみると、いかにも浪曲らしい。
落語っぽいストーリーがなんにもない噺である。いやほんとに。
でもたまらなく面白い。シチュエーションが実に生き生きしてる。
小助六師が語ると、これがしっかり落語になる。そして演者自身が、微妙に距離を置いて眺める登場人物を楽しんでいる。
鶴光師と違い、便宜上の悪役である番頭にはあまり寄っていかない。
地噺の脱線ギャグはそれほど入れない。
鶴光師から教わったにしても、味わいはだいぶ異なる。
「捕まったから尾張」だったか、三度繰り返して、「ここ、教えてくれた方が必ず三度やるようにとおっしゃるもので」。
審美眼を持つ尾張公はすぐ誰の仕業か見抜く。
甚五郎、探幽斎の縄を自ら解いて、語り合うのだった。
「三三と若手」はドリンク券がついているので、仲入り休憩にコーヒーいただく。
ちなみに本来価格が、コーヒーは300円でアルコール類は500円。
セコい私は、高いほうをつい頼みたくなるのだが、まだ我慢。
仲入り後は柳家三三師。
お足元の悪い中ようこそ。明日はもう大雨みたいですね。
今日は小助六さんと優々さんで。
優々さん、確かに名前の親近感ありますね。ただ、向こうは繰り返しのこの字ですから。
私は六画なんで、書くの簡単です。優々さんが優優だったら、サインするの大変ですね。憂鬱の憂になっちゃいますね。
あの上方落語のリズムはね、我々勝てないなって気がしますね。もう語るだけで面白いというね。
上方落語聴いて、ああ面白いな、やってみたいなと思うこともあるんです。
ただ、よくよく聴いてみたら、「本当に面白い?」ということもあったりしまして。言葉だけじゃないのと。
なので、上方の師匠から噺を教わったことはないですね。
東西の交流というものは、もう明治のころからあるわけですね。我々の先輩が西から、すでに完成した噺を持って帰ってきましてね。
ただ、こっちへ来るとだいぶ簡略化されますね。東京では寄席の15分サイズというものがあるので。
大阪も、今では寄席がありますけど、しばらくなかったので噺が長いですね。
先ほどの阿弥陀池も、東京では新聞記事です。ばっさりカットされるわけです。
私もね、たまに大阪でやらせてもらいますよ。そのときは噺の選択に困りますね。
もともと大阪の噺を、向こうで出すのは悪いなと思うわけです。なので東京出自の噺をなんとか選んで出しますね。
上方落語の噺をしつつ、直接語らないが小助六師が鶴光師から教わっていることまで、全部説明しきっているわけで、実にムダがない。
続きます。