三三師、小助六師のマクラについて。
あの、子供時代の落語への熱中ね。人ごとには思えなかったですよ。
私の高座も観てくれたようで。
でも、こういうこと私にもあります。
私が子供の頃、寄席で聴いて「上手い前座さんだな」と思ったのが花緑師ですね。
隣の人が、「小さんの孫だよ」なんて言ってて。ああ、そうなんだなと。
前座の落語聴いて、上手いなと思ったのはこの花緑師と、あと四代目の小圓朝さん、ふたりだけです。
今立派になってる師匠でも、前座のときはそれほどでもないっていうのがほとんどでした。
小圓朝アニさん、私の元兄弟子ですけど。さんぽって言う名前でした。
いろいろあって圓橘師匠のところに行きまして。お父さんの圓之助師匠の師匠の名前である、小圓朝を名乗ったんですね。
この人は上手かったなと思いました。
小圓朝の名が出てくるとは驚いた。
「いろいろあって」は語らなかったが、小三治がクビを切った弟子(全体の半分)のひとりである。
この人は幸い、二世であったこともあり円楽党に移れたのでよかった。早世してしまったのだが。
以下は私の勝手な妄想である。
三三師、自分の弟子(小かじ)を手放さなければならなかったこともあり、自分の師匠についてもいろいろ振り返るところがあるのかな、なんて。
というか、師匠に100%心酔してる人なんてそもそもいないのだと思うけど。
甚五郎が大工であることを引いてくる。
ここから大工調べへ。
あんまりやってない演目みたい。
ちなみに、トリだし「下」(お白州)までやるんじゃないかと期待したのだが、啖呵まででした。別に残念なわけではないですけどね。
イメージとしたら、珍品に対抗して自分自身でも珍品出しそうな気がするのだけども。
出てきたのは江戸落語のスタンダード演目である。大阪でやったらいちばん喜ばれそうな演目。
スタンダードだが、これは実によかった。
道具箱は「どうごばこ」。「人間つらまえて(捕まえて)」。
など、これは私のバイブル「五代目小さん芸語録」にも書いてある江戸っ子の発声。
でも「棟梁」はとうりゅうではない。わざとらしいと思うものか。
まずいいのは、与太郎のボケがやりすぎないこと。
与太郎は大家を「御の字」「あたぼう」で怒らせて帰ってくる。そのためストーリーとしては、「いかにして大家を怒らせてしまうか。そのために与太郎が棟梁のなにを仕込むか」という逆算になってしまいかねない。
そうじゃない。実に自然だった。
三三師の与太郎、本当に与太郎だ。やっぱり子供のころから落語聴いてる人には、与太郎が住み着いてるんだろう。
頭で考えて作り上げた与太郎じゃないのだ。
大工調べは、「大家は本当は悪い奴じゃないんじゃないか」と一度思っちゃうともうやれなくなるんだそうで。菊之丞師もそうだったはず。
先代小さんなどは、「大家は棟梁の言葉尻をとらえて反撃する、本当にひどい野郎なんだ」という腹でやってたらしい。なら、悩まなくていい。
でも三三師はちょっと違う気がする。
大家が悪いかどうかになど、最初から決着をつけようと思ってないみたい。
棟梁には棟梁の、大家には大家の正義があるのだ。ややこしい世界であっても、楽しい落語は描ける。
これ、現代社会にぴったりの描き方じゃないか?
「権力を正義が叩き潰してやる」なんて噺ではないのだから。ま、そもそもお奉行さまという、町役人よりずっと上の権力に頼るわけだけど。
大家がカチンと来た瞬間は、「たかが800のこってすから」という、棟梁のなんの気なしの発言らしい。少なくとも私にはそう見えた。
大家も、棟梁に対して最初から含むところはあったのだろうが、でも800文がすぐ出てくれば、たぶんどうということはなかったのだと思う。
大家は本当に立腹したのであり、「言葉のぞんざいな棟梁の言葉尻をついに捕まえた」ではなさそう。
棟梁、その後「うちの奴に放り込ませますから」はさすがにしくじった。火に油。
啖呵は見事でした。
柳家の人は中手が嫌いで、いかに入れさせないか常に考えている。
実際「三三と若手」でも、三三師は黄金餅の道中付けの後で客に手を叩かせる間を与えなかった。
手を入れたいけど、入れさせないだろうなと思って見ていたら、ワンクッション入った際にすかさず客から拍手。
本当は続けたいんだけども、息を入れないわけにいかないのかなと。
せっかくの拍手を受けて、「長屋の連中も気に入らねえ。みんな棟梁に手叩いてやがって」。
立川笑二さんがこんなことしてたな。
よく考えると、大家からの言葉の暴力は「雪隠大工」だけなのだ。
バランス悪いのは事実で、できなくなっちゃう演者の気持ちがわからないでもない。でも、どっちが正義かなんて気にしないでやってみてもいいのでは。
因業大家を凹ます噺だと認識しなくたっていいのでは。
啖呵のあとの与太郎も、やはり見事な与太郎っぷり。
作為がなくて、面白いこと言おうなんてしていない。
与太郎が、大家のかみさんにちょっと惚れてたなんてのは入れない。
また聴きたい大工調べでした。
終演後の三三師、優々、小助六の両師に予定を聴く。
もう着替えている両師は袖から顔だけ覗かせる。
優々師はSNSをフォローしてくださいと。小助六師は、ここらくごカフェでの一龍齋貞寿先生との会をよろしくとのこと。
実に満足。
(その1に戻る)