圓太郎師、二席目のマクラもいろいろ話していた。
毎度おなじみ娘さんの話とか。
朝起きて目ヤニが目尻の外についていた圓太郎師、娘さんが取ってくれたが、いきなり手を出すので爪で目の皮までめくれて血が出たんだって。
楽屋の鏡を見たらまだ血が出てたそうだ。
裏でやってるべらぼうの話も。これは本編での脱線だったか。
忠臣蔵の話も軽く出ていた。師も歌舞伎座に出かけたろうか。
例えば落語など、名人上手を目指す人もいます。
私は努力ということばが嫌いです。
私は東大進学者も多数輩出する高校に、上のほうの成績で入りました。
一緒に入った連中を見下したりなんかしまして。
ところが入学後、最初の実力テストで400人中の300番代でした。その後二度と浮上しませんでした。
みんな私を踏み台にしていきます。
落語界でも、努力してるなんてやつが大嫌いです。
落語家は、持って生まれたもので勝負してほしいのです。
面白いがよくわからぬ話題から、柳田格之進へ。
全然、圓太郎師のイメージにないこれが絶品だった。
こんなスタイル。スタイルから直接評価は出ない。
- 讒言にあって藩を追われ長屋に住まう柳田、娘の勧めで早々碁会所に
- 碁会所で萬家と遭遇し、すぐに萬家で碁に興じる
- 月見の番、水戸さまから預かった50両がなくなる
- 番頭の内心はさらっと地のセリフで説明される。早く言えば嫉妬
- 娘お絹が、柳田が腹を召すことを見抜き、自ら吉原に身を売る
- 長屋の女衒に託し、その日のうちに50両作れる説明入り
- 年末の大掃除で50両見つかり、萬家の主人は柳田を探すよう号令を掛けるが見つからない
- 明けて、藩に復帰のかなった柳田と番頭が遭遇する
- 碁盤斬り
- 娘はこの時点でまだ吉原にいた。慌てて身受け
- 娘はにっくき番頭をひっぱたく（これが縁になる）
ストーリーを追ってしまったが、ここに格別の意外性はない。
むしろ、番頭の心境をさらっと語ってしまうあたり、解釈を限定されたくない私からすると味消しにも映るぐらい。
最も響いたのは、50両を盗んだと疑われた際の、柳田の静かなしかしふつふつとたぎる怒りである。
町人だったら啖呵だが、侍なのでもう少し穏やかで、凄みがある怒りの発露。
誓って50両など盗んではおらん。必ず出てくるであろうが、そのときはどうする。
柳田格之進という噺から、初めて味わった感覚だ。
まさに感情がほとばしる噺。ときにこういうのが聴けるから人情噺が好きなのだ。
番頭は深刻さがわかっていない。
自分の首と、それだけじゃなんなので主人の首も付けます。
ギャグも入る。噺がマジになりすぎるのを避けるのと、客へのサービスだろう。
ただそれより、圓太郎師自身が入れたくて入れている感じ。
年末、旦那の号令で店の者はみな柳田を探しに出る。この際、3両という懸賞金がついた。
大金なので張り切るが、むしろ店の者は番頭さんの首が飛べば一段階出世できると張り切ってるんだって。
当の番頭は気が気じゃないが、雪の坂道で立派ななりの侍と遭遇してしまう。
元の藩の留守居役となった柳田は、駕籠から降りたところ。
これは駕籠かきに気を遣ったのである。雪の坂道は難渋するであろうと。
柳田格之進という人の生来の優しさが端的に描かれる。
神田明神の境内で一献と声を掛けられる番頭は袋のネズミ。
一緒にいたカシラに言付けて同行する。
柳田さまが見つかったというので、番頭がどうなるかわからないのにカシラはなんだか嬉しそう。
結局日を改め、翌日萬家に柳田が訪ねてきて、碁盤斬りとなる。
碁に夢中になって50両を紛失した旦那が、あたしは碁はやめますよとつぶやいているのがちょっと伏線になる。
昨年草彅剛主演の映画「碁盤斬り」が上映されたが、あいにく観ていない。
大作を堂々語った圓太郎師、改めて池袋浅草のトリをよろしくと語った後で、腰を上げない。
「年々太ってまして、本気で足がしびれています」
お客にどうぞお先にと退席をうながす。
立ち上がれない師を眺めているのも趣味が悪いので退席することにした。ホールを出る際、なにか師が口を開いたが、もう戻れない。
今年も大満足の拝鈍亭でした。
私は寄席のトリで圓太郎師を聴いたのはずいぶん前だ。
寄席ではむしろ、ヒザ前の達人のイメージ。
行ってみなければ。
