昨月末、解約をうっかり忘れてしまい、引き続き産経らくごを観ている。
今月は解約します。
落語会が数本まるまる聴けると思えば月1,100円は格安と言える。ただ、テレビの一種だと思ってしまえば、そこまでありがたくもない。
三遊亭兼好師の独演会を観ていた。
今日は兼好師ではなく、前座の夢ひろさんを。別に兼好師の高座が物足りなかったとかじゃないですよ。
この期待の前座さんが聴けたのが、うっかりサブスクの幸運。
夢ひろさんは、三笑亭夢丸師の弟子。だから芸協。
円楽党の兼好師の前座に使ってもらえるところが、実力と業界内の評価の現れであろうか。
夢ひろさんは、デビュー直後から圧倒的に上手かった。
デビューから2年弱、また上手くなっていた。
上手というのは、舌がよく回ってリズムがいい、それだけではなくて創作力もびんびん感じる。
「与太郎さんなんてのが出てまいりますと噺の幕開けですが与太郎」
最後の与太郎は、本編(親父の呼びかけ)である。
切れ目なく続けて本編に飛び込んで、客を高揚させる。
普通の前座さんにはできまい。
全般通じて高っ調子。日頃から鍛えてないと、終盤失速しそう。
家ほめと、牛ほめと2回行くタイプ。
以前芸協の前座さんから、寝ながら聴いた型。それを知らなきゃ、夢ひろさんの工夫と思っていただろう。
創作力の高い夢ひろさんに対しては、誤解のほうがあるいは面白かったかもしれないが。
牛ほめはクスグリが豊富な噺。
得てして、前座さんが頑張ってしまう。頑張ったって面白くはならない。
夢ひろさんはごく軽いクスグリも、自分で考えたんじゃないかとおぼしき結構面白いのも、全部淡々と入れていく。
客がくたびれたりすることはない。またこの人、絶妙にちょっとずつ客の脳内台本を裏切ってくるのがたまらない。
おとっつぁんの用意してくれた手紙に、
「結構なお天気ですね。この間は」
かなで書いてあるので、「結構なおてんきです。猫の間は」と読んでしまう与太郎。
これ、ありそうだけど聴いたことない。
「秋葉さまの火札」ではなくて「防火宣伝の紙」だった。
出かけるときにおとっつぁんに「さようなら」と挨拶してるあたり、ベタなクスグリだけどオリジナルっぽい。
ベタだけど、再度出かけるときに繰り返すので結構高度なクスグリになる。
小遣いは1万円と、ハイパーインフレ。
これはまあどうでもいいが。
与太郎とおじさんとのやり取りには、日常の悪態に当然含まれる悪感情が皆無。
決してリアルな感情を発動しないノウハウがある。感情を入れないときには入れない、ということか。
与太郎、防火宣伝の紙のくだりはなぜかスラスラ。
よく考えたら違和感あって不思議ないけど。
1万円くれ! と小遣いもらったら、そのまま帰ってしまうたまらない与太郎。
今度は別のおじさん宅に、牛をほめに。
やっぱりおとっつぁんが天角地眼一黒鹿頭耳小歯違を教えてくれる。
このスタイルも、全部繰り返しになるわけで、なかなかよくできてるなと思う。
おじさんに向かって、親父に教わった天角地眼を語る与太郎。
順序があべこべだが、牛を見せてもらう。
おじさんに対しては天角地眼がスラスラ言えたのに、牛を目にすると言えず、おじさんに教えてもらう。
このあたり、冷静に考えたら不自然だ。ギャグの都合だからだ。
でも、不自然に終わらせない。「お前、さっきおじさんの前で喋ってたじゃないか」これ一発で解消。
結構画期的だなと思ったのが、与太郎さっそく「穴」を探していること。
柱の節穴を指摘して小遣いもらったのを学習しているのだ。実に合理的ではないか。
ちなみに、前半の家ほめでもやっぱり穴を探していて、これは画期的かもしれない。
古典落語の頻出する「くりかえし」の楽しみを、夢ひろさんは拡大している。
繰り返して穴を探した結果、牛のケツが見つかるわけだ。
というわけで、「この前座さん上手いね」と思いながらじっくり聴いていくと、宝の山を隠し持っている。
いや、隠れてないか。見えてますね。
将来が実に楽しみであります。